
現場や職場で人をまとめる立場になると、「部下のミスを注意したいけれど、パワハラだと言われたらどうしよう」と気になる方も多いのではないでしょうか。
2022年4月にパワハラ防止措置がすべての企業に義務付けられ、指導とハラスメントの線引きは、これまで以上に意識されるようになりました。かといって、叱ることを避けて指導そのものをやめてしまえば、部下の成長も職場の安全も守れません。大切なのは、パワハラと適切な指導の境界を正しく理解し、伝え方を工夫することです。
この記事では、「叱る」と「怒る」の違いから、パワハラになりやすいNGな叱り方を解説します。今日から使える伝え方のコツまで触れていきますので、職長やリーダーなど部下を持つ方はぜひ参考にしてみてください。
そもそも「叱る」と「怒る」は違う?

叱り方を考えるうえで、まず押さえておきたいのが「叱る」と「怒る」の違いです。
| 項目 |
怒る |
叱る |
| 定義 |
自分のいら立ちや不満といった感情を相手にぶつける行為 |
相手の成長を願い、事実を正して行動の改善を促す行為 |
| 目的 |
感情の発散 |
相手の成長と行動改善 |
| 受け取られ方 |
理不尽な攻撃 |
改善のリクエスト |
建設業においても、パワハラになりやすいのは、本来「叱る」べき場面に、感情的な「怒る」が混ざり込んだときです。指導のつもりでも、感情が先に立てば、相手には理不尽な攻撃としか受け取られません。
叱る目的は、相手を否定することではなく、「次はこうしてほしい」という改善のリクエストを伝えることです。それらを踏まえて言葉を選ぶことが大切です。
パワハラと適切な指導の境界線

では、どこからがパワハラで、どこまでが適切な指導なのでしょうか。厚生労働省は、分かれ目を「業務の適正な範囲を超えているかどうか」に置いています。
たとえば、感情的な叱責や人格の否定は、業務の範囲を超えた言動と見なされます。反対に、事実にもとづいて論理的に改善を求める指導であれば、適正な範囲内と判断されます。同じ「注意する」でも、伝え方ひとつで評価が分かれるというわけです。
ここでは、パワハラと認定される3つの要素・6つの分類についてご紹介します。
パワハラと認定される3つの要素
職場のパワーハラスメントは、次の3つの要素をすべて満たすものと定義されています。
- 優越的な関係を背景とした言動
- 業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動
- 労働者の就業環境が害されること
裏を返せば、客観的に見て業務上必要で、かつ相当な範囲で行われる指導はパワハラには当たりません。適正な指導をためらいすぎる必要はないという点も押さえておきましょう。
参考:厚生労働省|パワーハラスメントとは
パワハラとされる6つの分類
厚生労働省は、パワハラを代表的な6つの型に分類しています。
- 身体的な攻撃(暴行・傷害)
- 精神的な攻撃(脅迫・侮辱・ひどい暴言)
- 人間関係からの切り離し(隔離・無視・仲間外し)
- 過大な要求(遂行不可能な業務の強制)
- 過小な要求(能力に見合わない仕事しか与えない)
- 個の侵害(私的なことへの過度な立ち入り)
参考:厚生労働省|パワハラを放置しない
叱り方との関係でとくに注意したいのが、精神的な攻撃です。指導のつもりの一言が暴言や侮辱と受け取られれば、パワハラに該当してしまう恐れがあります。伝え方については十分に注意しましょう。
パワハラに含まれやすいNGな叱り方

ここまで、パワハラの概要について解説しました。ここからは、パワハラに含まれやすい代表的なNG例をご紹介します。
| NGな叱り方 |
具体的な内容・特徴 |
| 人格や性格を否定する |
「だからお前はダメなんだ」のように、主語が「行動」ではなく「人」になっている叱り方。 |
| 大勢の前で叱る・見せしめにする |
他の人がいる場での叱責。相手の尊厳を傷つけ、就業環境を害する行為。 |
| 過去のミスを蒸し返す・他人と比較する |
「前も同じことを」「◯◯さんはできるのに」といった言葉。改善につながらず、相手を追い詰める。 |
| 感情的に長時間叱責する・無視する |
延々と責め続けたり、その後に無視したりする対応。指導の域を明らかに超えている。 |
いずれも共通するのは、相手の行動ではなく人格や存在そのものに矢が向いている点です。あくまでも事実にのみ焦点を当てて、伝え方を気にすることで改善できるでしょう。
パワハラにならない叱り方・伝え方のポイント

パワハラにならない叱り方・伝え方のポイントは、主に以下の4つです。
- 事実(行動)に焦点を当てる
- 1対1で、適切な場所とタイミングを選ぶ
- 改善点と期待を具体的に伝える
- 叱りっぱなしにせず事後フォローする
それぞれの内容についてみていきましょう。
ポイント1:事実(行動)に焦点を当てる
叱るときは、人格ではなく「起きた事実・行動」に焦点を当てましょう。「なぜできないんだ」と人を責めるのはパワハラに該当するためです。
例えば、「この手順が抜けていた」と具体的な行動のみを指摘し、事実ベースで話すことが大切です。行動や事実に焦点を当てて伝えることで、相手も何を直せばよいかを冷静に受け止められるでしょう。
ポイント2:1対1で、適切な場所とタイミングを選ぶ
叱る場面では、人前を避けて個室など落ち着いた場所を選びましょう。周囲の目がない環境なら、相手も素直に耳を傾けやすくなるためです。
事実に焦点を当てたとしても現場などの人の目がつく場所で叱ると、相手が余裕をもてなくなる可能性があります。プライバシーへの配慮はパワハラを避けるうえでの基本です。
ポイント3:改善点と期待を具体的に伝える
「ダメだ」で終わらせず、何をどう直せばよいのかを明確に示します。何がダメなのかを伝えないと、人格の否定と受け取られてしまう可能性もあるためです。
また、改善点だけでなく「あなたに期待しているからこそ伝えている」というようなポジティブなメッセージを添えると指導が相手の意欲につながります。改善点だけでなく良かった点等も伝えるようにしてみましょう。
ポイント4:叱りっぱなしにせず事後フォローする
叱った後の対応も同じくらい大切です。指導の後、改善が見られたらその変化をきちんと認め、言葉にして称賛しましょう。フォローがあるかどうかで、相手が抱く印象は大きく変わります。適切なアフターフォローは、信頼関係を深める機会にもなるでしょう。
普段から信頼関係を築いておくことも大切

叱り方のテクニックは、日ごろの関係性があってはじめて効果を発揮します。普段からコミュニケーションが取れている相手であれば、多少厳しい指摘も「自分のためを思って」と受け止めてもらいやすくなるためです。
また、叱る側が自分の感情を整えることも欠かせません。カッとなった瞬間に反応せず、ひと呼吸おいてから言葉を選ぶといったアンガーマネジメントの意識が、感情的な叱責を防ぎます。
さらに、指導のばらつきを抑えるために、管理職同士で「適切な指導とはどのようなものか」を共有して組織全体で底上げしていく取り組みも有効です。外部の研修や教育を活用して、指導する側のスキルを高める選択肢も検討するとよいでしょう。
CIC日本建設情報センターの建設現場入門講座

叱り方を工夫することと並んで見落とされがちなのが、「そもそも叱る場面を減らす」という視点です。とくに建設現場では、新しく入った技術者が基本的なルールやマナーを知らないまま働き始めると、注意や指摘の機会が増えて指導する側・される側両方の負担につながります。
CIC日本建設情報センターでは、「建設現場入門講座 現場デビュー前(講座5本セット)」のWeb講座を提供しております。新人・派遣登録者など未経験の方を対象に、現場で必要となる基本行動を各5分・全5本のコンパクトな構成で学べる内容です。
| アカウント数 |
1アカウント |
5アカウント |
10アカウント |
| 配信期間 |
30日 |
30日 |
30日 |
| 価格 |
5,500円(税込) |
27,500円(税込) |
55,000円(税込) |
講座は、スマホ・PCで視聴できるだけでなく、多言語の字幕にも対応しているため外国人の労働者にも活用可能です。期間内なら何度でも視聴できるため、建設会社・派遣会社にて、叱り方の改善・新人教育を両輪で進められるでしょう。
働きやすい現場作りでお悩みの場合、ぜひ活用をご検討ください。
パワハラにならない叱り方に関するよくある質問

ここでは、パワハラにならない叱り方に関するよくある質問についてまとめました。
厳しく叱るとすぐパワハラになる?
業務上必要で相当な範囲の指導であれば、多少厳しくてもパワハラには当たりません。人格を否定したり、感情的に責め続けたり、範囲を超えたりしたときに問題になります。
叱らずに褒めるだけで部下は育つ?
褒めることは大切ですが、改善すべき点を伝えなければ成長にはつながりません。とくに安全にかかわる場面では、見過ごしが事故を招くこともあります。褒めと指摘のバランスを取りつつも、必要な際は適切に伝えることが求められるでしょう。
部下に「パワハラだ」と言われたらどう対応する?
まずは感情的に反論せず、相手の受け止め方を確認しましょう。そのうえで、自分の指導が業務上必要な範囲だったかを振り返ります。伝え方に行き過ぎがあれば率直に認め、認識のずれがあれば冷静に説明しましょう。ひとりで抱えず、人事や上司に相談することも選択肢です。
まとめ

この記事では、「叱る」と「怒る」の違いから、パワハラになりやすいNGな叱り方を解説しました。パワハラにならない叱り方の第一歩は、「叱る」と「怒る」を切り分けることです。叱るのは相手の成長のための行為であり、感情をぶつける「怒る」とは分けて考える必要があります。
パワハラかどうかの分かれ目は、「業務の適正な範囲を超えているか」です。事実に焦点を当てて、1対1で改善点を具体的に伝えて事後にフォローすることで、相手を傷つけずに必要な指導ができます。
正しい叱り方・伝え方を身につけ、部下の成長と、安心して働ける職場づくりを両立させていきましょう。
CIC日本建設情報センターでは、「建設現場入門講座 現場デビュー前(講座5本セット)」のWeb講座を提供しております。現場で必要となる基本行動を各5分・全5本のコンパクトな構成で学べる内容となっておりますので、ぜひご検討ください。