
電力系統は、私たちの日常生活や日本の産業を支えるための重要な社会インフラです。とはいえ、発電所で作られた電気が、どのようにして家庭や工場まで届けられているのか、その仕組みがよく分からないという方もいるのではないでしょうか。
電力系統の知識は、電気工事士や電気工事施工管理技士、電気主任技術者などを目指す方にとって基礎分野です。実際、資格試験の問題として電力系統の内容が出題されるケースもあります。
本記事では、電力系統の基本的な構成から、発電・送電・変電・配電という4つの主要な要素、さらには電力系統を支える専門技術者の仕事と必要な資格まで解説します。どういったものか把握して、実際の資格試験の取得に役立ててみてください。



電力系統とは?社会を支える巨大なネットワークの全貌

電力系統は、現代社会を支える電気系統のネットワークシステムのことです。24時間365日、安定した電力供給を実現することを目的に、様々な設備と技術が組み合わされています。
まずは、電力系統の概要や構成、重要性や役割についてみていきましょう。
電力系統の概要と構成
電力系統は発電所でつくられた電気を、送電線・変電所・配電線などを通じて、安定的に消費者へ供給するための一連の設備とシステムです。電力系統は大きく分けて「発電」「送電」「変電」「配電」の4つの機能から構成されています。
まず、発電所で生み出された電気は、送電線を通じて変電所へと運ばれます。その後、段階的に電圧を下げながら、最終的に各家庭や工場へと届けられるのが基本的な仕組みです。
各家庭や工場へと届けられる中で各設備がスムーズに連携することで、常に需要と供給のバランスを保ちながら、質の高い電力を届けられます。日本では、地域ごとに電力会社が管理する系統が構築されており、相互に連携しながら安定供給を実現しています。
電力系統の重要性と役割
電力(電気)は、そのままのエネルギーの状態では貯蔵が難しいという特性を持つため、消費される量と全く同じ量をリアルタイムで発電する必要があります。この瞬時瞬時の需給調整が、電力系統の最も重要な役割の一つです。
この需給バランスが崩れると、電力の品質(周波数)が乱れ、最悪の場合は大規模停電(ブラックアウト)につながる危険性もあります。2018年の北海道胆振東部地震では、実際にブラックアウトが発生し、道内全域が停電する事態となりました。
電力系統は、複数の発電所をネットワークで結び、一部の発電所がトラブルで停止してもほかの発電所からの供給でカバーできるようにするなどの工夫が施されています。また、現在では再生可能エネルギーの導入拡大に伴い、天候に左右される発電量の変動を吸収する機能も重要になってきている傾向です。
電力系統を構成する4つの主要な要素

電力系統を構成する4つの要素は、発電・送電・変電・配電です。これらの内容は、第一種電気工事士や電験三種など、電気に関する資格試験で頻出される分野でもあります。そのため、基本的な要素を把握しておくことが大切です。
ここでは、それぞれの要素が持つ特徴と役割について、詳しく見ていきましょう。
1. 発電
日本では、火力・水力・原子力・再生可能エネルギー(太陽光、風力、地熱など)といった多様な発電所で電気がつくられています。日本の電源構成は、エネルギーセキュリティ(国民の生活に支障をきたさないようエネルギーを確保すること)と環境に対する負荷のバランスを踏まえて、組み合わせが考えられているのが特徴です。
主要な発電方式のメリット・デメリットに関して以下の表を参考にしてみてください。
| 発電方式 |
メリット |
デメリット |
| 火力発電 |
・出力調整が簡単にできる
・安定した供給可能 |
・CO2排出量が多い
・燃料費が変動しやすい |
| 水力発電 |
・CO2排出なし
・必要になったらすぐに発電可能 |
・立地の制約が大きい
・発電量が水量に依存してしまう |
| 原子力発電 |
・少ない燃料で大量に発電可能
・CO2排出なし |
・放射性廃棄物の処理が必要
・事故のリスクを十分に考慮しなければならない |
| 太陽光発電 |
・自然エネルギーなので不足しない
・小規模な利用も可能
・CO2排出なし |
・発電量が天候に依存する
・夜間の発電が難しい
・大量に発電する場合は広い土地が必要 |
| 風力発電 |
・自然エネルギーなので不足しない
・CO2排出なし |
・発電量が天候に依存する
・発電コストが比較的高い |
| 地熱発電 |
・CO2排出なし
・季節や天候、時間などの影響を受けにくい |
・発電コストが比較的高い
・温泉設備などの近くに設けられる可能性が高く、設備関係者との話し合いが必要になる |
2. 送電
発電所でつくられた電気は、数十万ボルト(V)という超高電圧に変換されて送電線(鉄塔など)を通り、効率的に遠くまで送られます。街中でよく見かける鉄塔などは、この送電網の一部です。
電圧を高くして送電する理由は、送電ロス(電力損失)を小さくするためです。同じ電力を送る場合、電圧を高くすることで電流を小さくでき、結果として送電線での損失を大幅に削減できます。
日本には地域ごとに電力会社(一般送配電事業者)が存在し、それぞれのエリアの送電網を管理しています。また、東日本(50Hz)と西日本(60Hz)で周波数が異なるのも特徴です。これらの内容は、第一種電気工事士や電験三種などの資格試験でも出題される内容なので、覚えておくと良いでしょう。
3. 変電
送電線で運ばれてきた超高電圧の電気を、工場やビル、鉄道や建物などで使いやすい電圧(数万〜数千V)に下げる役割を担うのが変電所です。電力系統の中継地点として重要な役割を果たしています。
変電は一度に行われるのではなく、超高圧変電所(50万V→15万4千V)→一次変電所(15万4千V→6万6千V)→中間変電所(6万6千V→2万2千V)→配電用変電所(2万2千V→6千6百V)と、段階的に電圧を下げていくプロセスとなっています。
また、変電所は電圧の変換だけでなく、事故が発生した際にその区間を切り離して被害の拡大を防ぐ系統保護の役割も担っているのも特徴です。遮断器や保護リレーといった設備により、異常を瞬時に検知し、健全な系統を守ります。
4. 配電
配電用変電所から6,600Vまで下げられた電気を、電柱や地中の配電線を通じて各家庭や事業所へ送り届ける役割を担うのが配電です。この配電部分は、私たちの生活に最も身近なものとなります。
電柱の上にはバケツのような機器が取り付けられていますが、あれは「柱上変圧器(トランス)」であり、最終的な電圧である100Vや200Vに変圧しています。一般的な住宅では単相3線式で100V・200Vの電気が供給されているのが特徴です。
高圧(6,600V)で受電する工場や大規模商業施設と、低圧(100V/200V)で受電する一般家庭や小規模店舗では、受電方式が異なります。高圧受電の施設では、受変電設備を設置して電圧を下げています。
これらの内容は、電気工事士の資格を始め、さまざまな電気系資格で登場する内容です。配電部分に関してもしっかりと理解を深め、資格取得や仕事に役立たせていきましょう。
電力系統を支える仕事と必要な資格

電力系統は、今もなお多くの技術者によって保守・運用されています。電力の安定供給を支える技術者には、それぞれの役割に応じた国家資格が求められているのが特徴です。
主な電気系の国家資格として、以下3つが挙げられます。
それぞれの資格についてみていきましょう。
電気工事士
電気工事士は、配電線や屋内外の配線工事など、電力系統の末端部分を担う仕事です。第二種電気工事士は一般住宅や小規模店舗の電気工事を、第一種電気工事士は第二種の範囲に加えて、ビルや工場などの大規模施設の電気工事も担えます。
試験では、筆記試験・技能試験にわかれています。技能試験では実際に配線を施工するため、しっかりとした対策が必要です。CIC日本建設情報センターでは、電気工事士の受験者向けの講座も取り扱っておりますので、ぜひ受講をご検討ください。

電気主任技術者
電気主任技術者は、発電所や変電所、大規模な工場などの事業用電気工作物の工事、維持、運用に関する保安監督を行う資格・仕事です。電力系統の安全を守る司令塔のような存在であり、取り扱える電圧によって第三種から第一種まで分類されています。
電力会社や大規模のビルや工場、電気の保安管理をメインの仕事とする会社では必要不可欠な資格です。
電気工事施工管理技士
電気工事施工管理技士は、発電所や変電所、送電線などに関する電気工事の現場において、工程・品質・安全・原価の4大管理を担う仕事です。
1級と2級で資格が分類されており、大規模な電気工事の現場では1級電気工事施工管理技士が監理技術者として全体を統括し、2級電気工事施工管理技士が主任技術者として実務を担当します。
CIC日本建設情報センターでは、電気工事施工管理技士の受験者向けの講座も取り扱っておりますので、ぜひ受講をご検討ください。
まとめ

電力系統は、発電・送電・変電・配電という4つの要素がスムーズに連携することで、生活に必要不可欠な電力を安定的かつ安全に供給しています。
発電所で作られた電気は、数十万ボルトという超高電圧で送電され、変電所で段階的に電圧を下げながら、最終的に100V・200Vとなって各家庭に届けられる仕組みです。また、電力系統に含まれる設備を支えるために、電気工事士・電気工事施工管理技士・電気主任技術者などが国家資格として定められています。
CIC日本建設情報センターでは、電気工事士・電気工事施工管理技士の受験者に向けてWeb講座を提供しております。受講者がモチベーションを維持しながら最短距離で合格を目指せる内容となっておりますので、ぜひ受講をご検討ください。

