
建物の解体や改修工事を行う際、「これはアスベスト?それともロックウール?」と迷われた経験はありませんか?
見た目がよく似た両者ですが、健康リスクや法的な取り扱いには大きな違いがあります。アスベストは発がん性が認められた危険物質として使用が禁止されている一方、ロックウールは現在も断熱材として広く使われている安全な建材です。
しかし、専門家でも見た目だけで判別するのは困難といわれています。2023年10月からは有資格者による事前調査が義務化され、建設業者・解体業者にとって正確な調査と分析の重要性がさらに高まっています。
この記事では、アスベストとロックウールの違いを徹底解説するとともに、なぜ専門的な分析調査が必要なのかをわかりやすくお伝えします。

アスベストとは?その危険性と特徴

建築業や解体業に携わる方なら、アスベストという言葉を一度は耳にしたことがあるでしょう。
かつて「奇跡の鉱物」と呼ばれたアスベストは、優れた性能から広く使用されていましたが、現在では深刻な健康被害をもたらす危険物質として使用が全面禁止されています。
アスベストの基礎知識と危険性
アスベスト(石綿)は、蛇紋石や角閃石などの天然鉱物が繊維状に変化した物質です。耐火性、耐熱性、絶縁性、耐薬品性に優れ、安価で加工しやすいという特徴があったため、かつては建材として重宝されていました。
しかし、アスベスト繊維の直径は約0.02〜0.35μmで、髪の毛の約5,000分の1という細さです。この細さゆえに空気中に飛散すると吸い込みやすく、肺の奥深くまで到達してしまいます。
さらに深刻なのは、一度体内に入った繊維は排出されにくく、長期間肺に留まり続ける点です。この蓄積したアスベストが、石綿肺(じん肺)、肺がん、悪性中皮腫といった重篤な疾患を引き起こします。吸い込んでから発症するまでに10年〜50年かかるケースもあり、症状が現れたときには既に病状が進行している場合が多いです。
国際がん研究機関(IARC)は、アスベストを「グループ1:ヒトに対して発がん性がある」に分類しており、その危険性は科学的に証明されています。こうした健康被害の深刻さから、日本では2006年9月1日以降、重量の0.1%を超えてアスベストを含有する製品の製造、使用等が原則として禁止されました。
過去の建材におけるアスベストの使用例
アスベストは1970年代まで「万能建材」として、建築物のあらゆる場所で使用されていました。
吹き付けアスベストは、鉄骨造の建物の梁や柱、天井などに耐火被覆材として使われ、最も飛散しやすい「レベル1」に分類されています。保温材・断熱材は配管周辺やボイラー、空調ダクトなどに使用され「レベル2」に該当します。成形板はスレート屋根材や外壁材、天井板などに使われ「レベル3」に分類されています。
これら以外にも、煙突材、防音材、結露防止材など、実に3,000種類以上の建材にアスベストが使われていました。2006年9月1日より前に着工した建物には、アスベスト含有建材が使用されている可能性が高いため、解体やリフォームを行う際には、必ず有資格者による事前調査を実施することが法律で義務付けられています。
ロックウールとは?安全性が認められた建材の特徴

アスベストと見た目がよく似ているため混同されやすいのが「ロックウール」です。しかし、両者は全く異なる物質であり、安全性にも大きな違いがあります。
ロックウールの基礎知識と製造方法
ロックウール(岩綿)は、玄武岩や高炉スラグなどを原料とする人造の鉱物繊維です。天然鉱物であるアスベストとは根本的に異なる人工素材で、原料を約1,500℃以上の高温で溶解し、遠心力を利用して繊維状に加工します。
このプロセスで作られるロックウールの繊維は、直径が約3〜5μmとアスベストの100倍以上の太さがあり、この繊維の太さの違いが、安全性の大きな違いにつながっているのです。
ロックウールもアスベストと同様に、優れた耐火性、断熱性、吸音性を持ち、特に不燃材として火災時の延焼防止効果が期待できます。
ロックウールの安全性と主な用途
国際がん研究機関(IARC)による発がん性分類では、ロックウールは「グループ3:ヒトに対する発がん性が分類できない」に分類されています。これはコーヒーやお茶と同じ分類で、健康被害のリスクが極めて低いことを意味しています。
この安全性の違いは、繊維の太さによるものです。ロックウールの繊維はアスベストの100倍以上太いため、空気中に長時間浮遊しにくく、万が一吸い込んでも肺の奥まで到達することは基本的にありません。さらに、体内に入った場合でも比較的短期間で体外に排出されます。
こうした安全性が認められているため、ロックウールは現在も木造住宅の壁や天井の充填断熱材、ビルや工場の吸音材、防火区画の耐火被覆材などとして広く使用されているのです。
ただし、1975年〜1987年頃に施工された吹き付けロックウールには、アスベストが含まれている可能性があるため、専門家による分析調査が必須となります。
アスベストとロックウールの決定的な違い

ここまでアスベストとロックウールそれぞれの特徴について解説してきましたが、現場では両者を見分けることが非常に困難です。
ここでは、具体的にどのような違いがあるのか、そしてなぜ判別が難しいのかを詳しく見ていきましょう。
危険性・原料・用途の3つの観点で比較
アスベストとロックウールの違いを、3つの観点から整理しましょう。
危険性では、アスベストが「グループ1:ヒトに対して発がん性がある」に分類されるのに対し、ロックウールは「グループ3:ヒトに対する発がん性が分類できない」とされています。
原料では、アスベストが蛇紋石や角閃石などの天然鉱物繊維である一方、ロックウールは玄武岩や高炉スラグを人工的に溶解して作られる人造繊維であり、成り立ちが根本的に異なります。
用途と法規制では、アスベストが2006年9月1日以降製造・使用禁止となっているのに対し、ロックウールは現在も断熱材や吸音材として新築住宅でも一般的に使用されている安全性の高い建材なのです。
両者を見分ける「ポイント」と「難しさ」
アスベストとロックウールを見分ける簡易的な方法として、指で押してみる方法や酢酸をかける方法などが知られています。アスベストは繊維が強靭なため砕けずに残り、酸にも強く溶けません。一方、ロックウールは指で押すと粉々に砕け、酢酸に溶ける性質があります。
しかし、これらの簡易的な判別法はおすすめできません。判別のために建材に触れること自体が、アスベスト繊維を飛散させるリスクを伴うため、もしその建材がアスベストだった場合、粉塵を吸い込んでしまう危険性があるのです。
最も重要なのは、見た目だけでの判断は非常に危険であるという認識です。特に1975年〜1987年頃の建物では、吹き付けロックウールにアスベストが混入しているケースがあり、外観からの判別はほぼ不可能です。
このため、建物の解体や改修工事を行う際には、石綿障害予防規則に基づき、建築物石綿含有建材調査者などの有資格者による事前調査が法律で義務付けられているのです。
建築物における建材の分析調査の重要性

両者は見た目では判別が困難であり、簡易的な判別法にもリスクが伴います。そのため、建築物の解体や改修工事を行う際には、専門的な分析調査が不可欠です
なぜ「分析調査」が必要なのか?
建築物の解体や改修工事を行う前には、有資格者による事前調査が義務付けられています。
この事前調査では、まず設計図書などの書面調査と目視による現地調査を行いますが、これだけではアスベストの含有を確実に判断できないケースが多く存在します。
特に問題となるのは、1975年〜1987年頃に施工された吹き付けロックウールや、成形板などの建材です。これらは目視だけでアスベスト含有の有無を確認することが非常に困難であり、建材の一部を採取して専門機関で分析することで、初めて正確な判断ができるのです。
分析調査では、位相差顕微鏡法やX線回折法などの専門的な手法を用いて、建材に含まれるアスベストの有無や種類、含有率を科学的に判定します。
なお、書面調査と目視調査で判断できない場合は、「分析調査」を行うか、「アスベスト含有とみなして除去工事を行う」のいずれかを選択します。分析調査では、2023年10月1日以降、厚生労働大臣が定める有資格者による実施が必要です。
調査を怠った場合に生じるリスク
アスベストの事前調査や結果報告を怠った場合、法律違反として罰則の対象となります。
大気汚染防止法では、事前調査を行わずに工事を着工した場合、3か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科される可能性があります。さらに、作業基準に違反した場合は、6か月以下の懲役または50万円以下の罰金という、より重い罰則が定められているのです。
しかし、法的な罰則以上に深刻なのは、健康被害や環境汚染のリスクです。適切な調査を行わずに解体工事を進めた場合、アスベスト繊維が大気中に飛散し、作業員や周辺住民が吸い込んでしまう危険性があります。また、調査不備による飛散事故が発生すれば、企業の社会的信用が損なわれ、損害賠償請求や工事の中止命令など、経営に深刻な影響を及ぼす事態に発展しかねません。
こうしたリスクを回避するためにも、有資格者による適切な事前調査と、必要に応じた専門機関での分析調査を実施することが極めて重要です。
まとめ

アスベストとロックウールは見た目が似ていますが、危険性には大きな違いがあります。
アスベストは発がん性が証明され2006年9月1日以降使用が禁止されている一方、ロックウールは安全性が認められ現在も広く使用されています。
両者の最大の違いは繊維の太さです。アスベストは極めて細く体内に蓄積しますが、ロックウールは100倍以上太いため健康リスクが低いとされています。しかし、見た目だけでの判別は専門家でも困難です。
2006年9月1日より前に着工した建物の解体や改修工事では、有資格者による事前調査が義務付けられています。調査を怠った場合、法的な罰則だけでなく、健康被害や企業の社会的信用失墜といった深刻なリスクが生じます。
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