建設現場での墜落・転落災害を防ぐために欠かせない「足場の組立て等の業務に係る特別教育」。労働安全衛生法により義務付けられているこの教育は、足場作業の安全性確保において重要な役割を果たしています。
この記事では、足場の組立て等に関する特別教育の重要性について、実際の災害事例を交えながら解説します。現場での安全対策や効果的な教育方法についてもご紹介しますので、ぜひ参考にしてみてください。
公開日:2025年9月30日 更新日:2025年9月30日
建設現場での墜落・転落災害を防ぐために欠かせない「足場の組立て等の業務に係る特別教育」。労働安全衛生法により義務付けられているこの教育は、足場作業の安全性確保において重要な役割を果たしています。
この記事では、足場の組立て等に関する特別教育の重要性について、実際の災害事例を交えながら解説します。現場での安全対策や効果的な教育方法についてもご紹介しますので、ぜひ参考にしてみてください。
建設業における労働災害の中でも、足場に関連する事故は特に深刻な問題となっています。足場の組立て、解体、変更などの作業は高い専門性と安全意識を要求される業務であり、不適切な作業は重篤な災害を招く可能性があります。
安全衛生特別教育規程第22条により、足場の組立て等の業務に従事する労働者に対しては、特別教育の実施が義務付けられています。この特別教育は、足場の構造や組立て方法、安全な作業手順、関連法令等について理解を深め、現場での災害防止を図ることを目的としています。
足場からの墜落・転落事故による死亡災害において、建設業が約9割を占めており、建設業における墜落・転落災害のうち、足場による死傷災害が約15%、死亡災害で約18%となっています。これらの統計からも、足場の組立て等に従事する労働者への適切な教育の必要性が明らかです。
発生状況: 事務所建設工事において、無足場工法の建物6階の階段脇の鉄骨梁上(躯体端部)でコンクリート打設作業に従事していた。コンクリートがコン止めデッキからこぼれそうになったため、しゃがんで手でかき上げた後、立ち上がった際にバランスを崩して躯体端部から建物外側に14.5m下に墜落した。親綱は設置されていたが、被災者は安全帯を使用していなかった。
①親綱は設置されていたにもかかわらず保護具の安全帯を使用していなかった。
②開口部の覆いや手すり等の墜落防止設備が不備だった。
③被災者の入場日数が237日と経過していることから「慣れ・慢心」も要因と考えられる。
経験40年のベテランが高所から墜落し、重篤な外傷を負った。
①高所作業での安全帯の確実な使用
②墜落防止対策として安全帯と併せて手すりや開口部の覆い等の二重三重の安全対策の実施、以上の二点があれば未然に防ぐことができた。
事務所・通信施設の建設工事において、11階エレベータシャフト内の仮設デッキプレート上で、複合耐火被覆の下地ラス取り付け作業を行う予定であった。仮設デッキプレート端部の調整板が一部未施工で、約400mm×1000mmの開口状態になっていた部分に雨養生のため防炎の白シートが張ってあった。被災者は雨養生シートの下にデッキプレートがあると思い、開口部に足を踏み入れたところ、シートが外れて1階まで50メートル墜落した。11階より下のシャフト内足場及び仮設デッキは、エレベータ分割施工工事のため、解体・撤去されていた。
開口部を塞ぎ調整板取付け後の現地確認を怠ったこと、下のエレベータシャフト内足場及び仮設デッキ解体時に上階仮設デッキの状態確認を怠ったこと、開口部の覆いや手すり等墜落防止設備が設置されていなかったこと、作業手順が作成されていなかったことが主な原因であった。被災者は保安帽・安全帯を装着していたが、床上での作業だったため、安全帯は使用していなかった。
経験13年の作業者が50mの高所から墜落し、重篤な外傷を負った。
①作業開始前の関係者全員による現地での安全点検後のKY実施
②開口部の覆いや手すり等墜落防止設備の設置
③作業手順書の作成と連絡調整会議での未施工箇所等の報告・フォロー、以上の三点がなされていれば未然に防ぐことができた。
事務所・店舗の建設工事において、エレベーターの2階防火枠取付のため、エレベーター業者が設置した開口部養生を撤去し、代替養生の単管手すりを取付ける作業を行っていた。4段設置予定のうち2段目の設置が終わり、3段目の設置に取りかかっていた。単管固定用のキャッチクランプを取付けようと2段目の単管に足をかけたところ、2段目単管が外れ、そのままエレベーターピットへ7.25m墜落した。安全帯は1丁を2段目に掛けていたものの、単管が外れた際に安全帯が抜け落ちて墜落したものと思われる。
単管手すりの構造及び安全帯の取付設備が不適切であったこと、危険な位置で不安全な姿勢による作業を行ったこと、作業計画や作業手順が不十分だったことが主な原因であった。経験31年のベテランとび工であったが、入場日数が244日と長期間経過していることから「慣れ・慢心」も要因と考えられる。
経験31年のベテランとび工が7.25mのエレベーターピットに墜落し、重篤な外傷を負った。
①単管手すり設置時のゆるみやガタの確認
②自在キャッチクランプ使用時の締め付け確認
③作業開始前の作業計画や作業手順の明確化と関係者との打合せ、以上の三点がなされていれば未然に防ぐことができた。
新たな災害事例を分析すると、建設現場での墜落・転落災害には以下の共通する根本的な問題が浮かび上がってきます。
①墜落防止設備の不備:手すり、開口部の覆い等の基本的な安全設備が設置されていない。
②安全帯取付け設備の不適切性:安全帯を掛ける設備が不安定であったり、適切な位置に設置されていない。
③作業環境の危険性:仮設デッキの敷き漏れ、単管手すりの構造的不備など物理的な危険要因の見落とし。
①作業計画・手順の不備:詳細な作業手順書の未作成や不十分な内容。
②現地確認の不足:作業開始前の安全点検や関係者間での情報共有不足。
③連絡調整の不備:工事間での未施工箇所や危険箇所の報告・フォロー体制の欠如。
①安全帯の不使用:設置されている安全設備を使用しない、または不適切な使用。
②慣れ・慢心:長期間の現場勤務や豊富な経験による油断や安全意識の低下。
③不安全行動:危険な位置での不安定な姿勢による作業の継続。
災害を未然に防ぐためには、作業開始前の十分な準備と計画が最も重要です。
作業計画の策定
①詳細な作業計画書の作成と作業手順の明確化
②使用する部材、安全対策についての十分な検討
③全作業者への周知徹底と関係者との打合せ実施
現場環境の事前確認
①作業場所の照明設備、床面の平坦性、障害物の有無等の詳細確認
②開口部や未施工箇所の状況把握と情報共有
③必要に応じた事前の改善措置の実施
作業中における安全対策の確実な実行が、重大災害の発生を防ぐ鍵となります。
管理体制の確立
①技能講習を修了した足場の組立て等作業主任者の必須選任
②適切な作業指揮と安全監視の実施
③作業開始前の関係者全員による現地での安全点検とKY活動
墜落防止対策の徹底
①作業者による墜落制止用器具の例外なき使用
②適切な取付け設備への確実な接続
③手すり先行工法の採用による常時手すりがある安全な作業環境の確保
④安全帯と併せた手すりや開口部の覆い等の二重三重の安全対策実施
部材・設備の安全確認
①単管手すり設置時のゆるみやガタの確認
②自在キャッチクランプ使用時の締め付け確認
③足場部材の確実な固定状況の点検
足場完成後も継続的な点検と維持管理により、安全性を持続することが不可欠です。
完成検査の実施
①構造全体、個々の部材の緊結状況の詳細検査
②安全設備の機能確認と記録保持 ③検査結果に基づく必要な改善措置
日常点検体制
①作業開始前の作業者による日常点検の実施
②異常発見時の使用中止と必要な措置を講じる体制整備
③定期的な安全確認と維持管理
災害事例から学んだ教訓を活かした実践的な教育・訓練が、安全文化の醸成につながります。
特別教育の実践的実施
①安全帯取付け設備の設置方法と確実な使用方法
②開口部や悪天候時における安全対策
③解体作業時の付帯設備撤去の重要性
④災害事例を踏まえた実践的な内容での実施
技能向上と安全意識の醸成
①座学による知識習得と実際の足場部材を使用した実技訓練
②具体的な作業技能の習得と安全意識の向上
③ベテラン作業者の「慣れ・慢心」防止のための継続的な安全教育
安全管理体制の構築
①作業主任者による不安全行動の監視と適切な安全指導
②組織として安全管理に取り組む体制の構築
③現場全体の安全文化の醸成と継続的な改善活動
「足場の組立て等の業務に係る特別教育」は、建設現場における重大災害を防ぐための重要な取組みです。過去の災害事例から明らかになったように、技術的知識の不足、不適切な作業手順、安全管理体制の不備等が複合的に作用して重篤な事故が発生しています。
これらの災害を防ぐためには、以下の取り組みが不可欠です。
特に、作業者一人ひとりが安全に対する高い意識を持ち、適切な知識と技能を身につけることが最も重要です。
建設業に従事する全ての関係者が協力して、足場関連災害の撲滅に向けた取組みを継続することにより、安全で健康な職場環境の実現を目指していく必要があります。災害事例から学んだ教訓を活かし、同様の事故を二度と発生させないための努力が求められています。
CIC日本建設情報センターでは、法令に基づく「足場の組立て等の業務に係る特別教育」を実施しており、経験豊富な講師陣による実践的な教育プログラムを提供しています。現場での安全確保と災害防止のため、ぜひCICの特別教育の受講をご検討ください。
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