
長期間にわたりアスベスト(石綿)の粉じんを吸い込んでしまうと、将来的に肺や胸膜に深刻な病気を引き起こす可能性があります。アスベストは「静かなる時限爆弾」とも呼ばれ、その健康被害はばく露(吸入)してから数十年後に突然発症するのが特徴です。
「昔、解体現場で働いていた」「古い建物の近くに住んでいた」など、過去のアスベストばく露に不安を感じている方も多いのではないでしょうか。
この記事では、アスベストが原因で発症する4大疾患をはじめ、病気の初期サインや潜伏期間の長さ、そして万が一症状が出た場合にどこに相談すべきかについて詳しく解説します。

アスベストによる初期症状

アスベスト関連疾患はゆっくりと進行するため、初期の段階では目立った自覚症状がないことがほとんどです。しかし、病気が進行するにつれて、以下のような症状が現れ始めます。
| 症状の種類 |
特徴と注意点 |
| 息切れ(労作時呼吸困難) |
階段を上る、重いものを持つなど、身体を動かした際に息苦しさを感じる。病気の進行で肺の機能が低下し、最初に現れやすい症状。 |
| 咳(せき) |
たん を伴わない乾いた咳が続く。特に石綿肺や肺がんの場合に見られることが多い。風邪やアレルギーと間違えられやすい。 |
| 胸の痛み |
持続的または断続的に胸部に痛みを覚える。特に中皮腫や良性石綿胸水など、胸膜(肺を包む膜)に病変が起こっている場合に注意が必要。 |
| 全身倦怠感・体重減少 |
特にがん系の疾患(肺がん、中皮腫)の場合、病気が進行すると食欲不振や原因不明の体重減少、疲れやすさが生じる。 |
これらの症状は、風邪や一般的な呼吸器疾患でも見られるため、アスベストばく露経験がある方や長期間症状が改善しない場合は、専門医に相談することをおすすめします。
アスベストの潜伏期間

アスベスト関連疾患は、潜伏期間が長いことでも知られています。アスベスト繊維が肺に侵入してから、病気が発症するまでに要する期間は、数十年に及ぶのが一般的です。
| 疾患名 |
およその潜伏期間(ばく露から発症まで) |
| 中皮腫 |
30〜50年 |
| 肺がん |
15〜40年 |
| 石綿肺 |
10〜40年以上(ばく露量による) |
| 良性石綿胸水 |
5〜30年 |
多くの場合、アスベストを吸い込んだ現役の労働期間が終了し、引退した後に病気が発症します。中皮腫に至っては、ばく露から最短でも30年、平均して40年近く経ってから発症するとされています。
アスベストは潜伏期間が長いことから「静かなる時限爆弾」と呼ばれます。過去のばく露歴がある方は、現在症状がなくても定期的な健康診断が重要です。
アスベストが引き起こす4大疾患

アスベストの吸入によって引き起こされる代表的な疾患は、主に以下の4種類です。すべて、肺やその周辺の組織に病変をもたらす深刻な病気とされています。
①石綿肺(せきめんはい)
石綿肺は、アスベストの粉じんを大量に、かつ長期間にわたって吸入することで発症するじん肺の一種です。
| 症状 |
労作時の息切れ、慢性的な咳、痰など。 |
| 病態 |
肺の中に吸い込まれたアスベスト繊維を異物として体が処理しようとする過程で、肺の組織が線維化(硬くなること)する。線維化が進むと肺が十分に膨らまなくなり、酸素を取り込む能力が低下する。 |
| 特徴 |
石綿肺は労働災害として認定されることが多く、主に建設業や工場などでアスベストを扱っていた人に発症する。 |
②肺がん
肺がんは、肺の細胞が異常増殖する病気で、アスベストの吸入が発症リスクを高めることが科学的に証明されています。
| 症状 |
血痰(血の混じった痰)、頑固な咳、胸の痛み、発熱、体重減少など。 |
| 病態 |
アスベスト繊維が肺組織に留まり続けることで、細胞の遺伝子に損傷を与え、がん化を引き起こすと考えられている。 |
| 特徴 |
喫煙とアスベストばく露の両方がある場合、肺がんのリスクは相乗的に高まるとされている。アスベストが原因で発症したと認定されるためには、一定のばく露歴が必要。 |
③中皮腫(ちゅうひしゅ)
中皮腫は、肺を包む胸膜・腹部の臓器を包む腹膜・心臓を包む心膜などの中皮と呼ばれる膜から発生する、悪性度の高いがんです。アスベストとの関連性が最も強い疾患として知られています。
| 症状 |
胸の痛み、胸水による咳や呼吸困難、腹部の張り(腹膜中皮腫の場合)など。 |
| 病態 |
肺の表面にできる胸膜中皮腫が最も多く、胸水が溜まることで肺が圧迫され、強い息苦しさを伴う。 |
| 特徴 |
少量のばく露でも発症する可能性があり、その潜伏期間が極めて長い(30~50年)のが特徴。アスベストが原因と特定された中皮腫は、石綿健康被害救済制度の主要な対象疾患とされる。 |
④良性石綿胸水
良性石綿胸水は、胸膜の炎症により、肺と胸郭の間に液体(胸水)が溜まる病気です。
| 症状 |
胸の痛み、咳、息切れなど。 |
| 病態 |
アスベスト繊維が胸膜を刺激し、炎症を起こすことで胸水が溜まる。 |
| 特徴 |
多くの場合、胸水は自然に吸収され、良性と診断される。ただし、中皮腫や他の病気の可能性を否定するためにも、詳しい検査が必要。石綿による胸膜肥厚や胸膜プラーク(胸膜の石灰化)を伴うこともある。 |
こんな方は要注意

アスベスト関連疾患は、職業上のばく露だけでなく、生活環境でのばく露によっても発症するリスクがあります。特に以下のような経験がある方は、現在症状がなくても注意が必要です。
過去に建設現場や工場で働いていた人
職業上のばく露が最も大きなリスク要因です。特に1970年代から2000年代初頭にかけて、アスベストの製造、加工、またはそれらを使用した建材を取り扱う工場や、建物の解体・改修工事などに携わっていた方は、多量に吸い込んでいる可能性があります。石綿肺や、労働災害認定された肺がんは、このケースが多くを占めます。
アスベスト製品を扱う工場周辺に住んでいた人
アスベストを扱う工場から排出された粉じんが大気中を漂い、周辺住民が吸入してしまう環境ばく露のリスクがあります。特に工場から近い地域に長期間住んでいた方は、中皮腫の発症リスクが高いことが指摘されています。
築年数の古い家に長く住んでいる人
アスベストが使われた建材(天井や壁の吹付け材、屋根材など)がある築年数の古い家に長く住んでいる場合、建材の劣化や破損、リフォーム時などにアスベストが飛散し、それを吸い込んでしまう可能性があります。日常生活におけるばく露量は少ないとされるものの、不安がある場合は専門家による建物の事前調査を検討することが大切です。
心配な場合の相談先

過去のアスベストばく露に心当たりがあり、健康被害が心配な場合は、迷わず専門の医療機関や相談窓口を利用しましょう。ここでは、アスベストによる不安を解消するために受診すべき医療機関や相談窓口について解説します。
呼吸器内科、アスベスト専門外来
まずは、呼吸器内科を受診するのが一般的です。特に、アスベスト関連疾患の診療経験が豊富な「アスベスト専門外来」や、じん肺を専門とする医療機関を受診することで、スムーズで正確な診断につながります。
受診の際は、「いつ・どこで・どれくらいの期間、アスベストにばく露した可能性があるか」を詳しく医師に伝えることが重要です。
地方自治体の相談窓口
多くの地方自治体や労働基準監督署では、アスベストによる健康被害に関する相談窓口を設けています。 相談窓口では、主に専門医療機関の紹介や、自治体が実施する無料の健康相談や健康診断の案内、さらには救済制度の適用条件や申請手続きに関するサポートなどを実施しています。
労働基準監督署は業務上のばく露による労災申請に関する相談先として、地方自治体は環境ばく露による健康被害や地域の医療情報に関する相談先として活用できます。
医療機関で行われる検査

アスベスト関連疾患が疑われる場合、医療機関では主に以下の検査を行い、診断を確定します。
- 胸部レントゲン検査(胸部X線検査):最も基本的な検査。肺の線維化(石綿肺)や、胸膜の肥厚・プラーク(石灰化)、胸水の貯留などを確認する。
- CT検査(コンピューター断層撮影):レントゲンよりも詳細な画像を撮影できる。肺や胸膜のわずかな異常、初期の中皮腫や肺がんなどを早期に発見するために有効。
- 呼吸機能検査:肺の空気を取り込む能力や肺活量などを測定し、肺の機能低下(石綿肺など)の程度を評価する。
- 病理組織検査:中皮腫や肺がんが疑われる場合、胸水や病変組織の一部を採取し、顕微鏡でアスベスト繊維の有無や、細胞の悪性度を確定的に診断する。
アスベストによる健康被害に対する救済制度

アスベストによって健康被害を受けた場合、原因が「業務上のばく露によるものか」によって、治療費や給付金を受け取れる二つの公的な救済制度が用意されています。
労災保険制度(仕事が原因の場合)
アスベストによる病気が、業務上のばく露が原因で発症したと認められた場合、「労働者災害補償保険法(労災保険)」が適用されます。
- 対象:石綿肺、石綿による肺がん、中皮腫、良性石綿胸水など
- 内容:治療費(療養補償給付)が全額支給されるほか、休業補償給付、障害が残った場合の障害補償給付、遺族への遺族補償給付などが支給される。
石綿健康被害救済法(隙間を埋める制度)
労災保険の対象とならない非業務上のばく露(環境ばく露や建築物周辺でのばく露など)によって健康被害を受けた方のために、「石綿健康被害救済法」が設けられています。
- 対象:中皮腫、石綿による肺がん、著しい呼吸機能障害を伴う石綿肺など
- 内容:医療費の自己負担分、療養手当、葬祭料などが支給される。
給付金請求には「証明」が必要
給付金や補償金を請求する際には、「アスベストばく露と病気との因果関係」や「業務上のばく露であったか」を証明するため、医療記録や過去の勤務・居住履歴が必要になります。証明が難しい場合もあるため、申請手続きは弁護士や社会保険労務士などの専門家に相談しながら進めるのが一般的です。
建物のアスベストに関する不安は「石綿の窓口へ」

アスベストによる健康被害は、過去のばく露だけでなく、今お住まいや所有している建物にアスベストが残存しており、それが飛散するのではないかという不安から生じることもあります。
「建物の解体や改修を予定している」「古い建物を所有していてアスベストの有無が心配」という場合は、専門家による事前調査が必要です。
CIC日本建設情報センターの「 石綿の窓口 」なら、アスベスト調査〜行政への報告書作成まで、すべて丸ごとお任せいただけます。最新の法令改正(工作物調査の義務化など)にも完全に対応しており、ご希望があれば、調査後のアスベスト除去工事や解体工事を行う信頼できる協力会社を無料でご紹介いたします。
建物のアスベスト調査に関するお悩みがあれば、ぜひお気軽にご相談ください。

まとめ

アスベストによる健康被害は、数十年の潜伏期間を経て発症する中皮腫や肺がんなど、深刻な病気が中心です。過去に建設現場などで働いていた方、アスベストを扱う工場周辺に長期間居住されていた方は、症状がなくても呼吸器内科や専門外来での定期的な検査について医師に相談することをおすすめします。
万が一、病気が発症した場合は、労災保険制度や石綿健康被害救済法といった公的な救済制度を利用して、治療費や給付金を受け取ることができます。
また、所有されている建物のアスベスト含有に関する不安は、事前調査の専門家に相談することが賢明です。アスベストの調査でお困りの際は、「 石綿の窓口 」へお気軽にお問い合わせください。お客様の安全と安心を確保できるよう、全力でサポートいたします。
