公開日:2024年5月17日 更新日:2025年5月19日
アスベストは肺癌や中皮腫の要因ということが判明し、2006年9月以降は使用禁止になりました。しかし、それ以前の建物にはアスベストを使用している可能性が高く、建築物を取り壊す場合にはアスベストの有無を確認する必要があります。
以前から作業をする際に資格は必要でしたが、2023年以降は事前調査でも資格が必要になりました。今回はアスベストに関する資格の種類や講習内容、資格取得の難易度についても解説します。
かつてアスベスト(石綿)は奇跡の鉱物と言われ、建築材料をはじめ自動車や電化製品、家庭用品など幅広い分野で活躍していました。ところが空中に飛散したアスベストを吸引すると肺癌や中皮腫の要因になることが判明し、使用が禁止されました。
建物のアスベスト除去作業は、アスベストの危険性もあることから原則として資格が必要です。
かつて多くの建築物にアスベストを使用していたため、解体時にアスベストが拡散して大気汚染の原因になることが指摘されており、2021年から順次法律が改正されています。
従来は建材の種類としてレベル1「吹き付け石綿」レベル2「石綿が含まれる保温材、断熱材、耐火被覆材」までが規制対象でしたが、新たにレベル3「石綿が含まれる形成板等、仕上げ塗材」も規制対象となりました。
次にアスベストを使用した建築の解体や補修、改造を行う場合は種類ごとに作業基準が定められており、元請け業者は遵守しなければなりませんでした。従来は下請け業者対象外でしたが、下請け業者も順守義務の対象です。
さらに大気汚染防止法によって定められた、特定工事を請け負う元請け業者は、特定粉塵排出等作業の完了後に、作業結果を発注者に報告して「写し」の保存が義務付けられました。
床面積が80平方メートル以上の建築物の解体工事、請負金額が100万円以上(税込)の建築物や工作物の改修・解体工事については、原則として電子システムの報告が義務付けられました。
建築物のアスベストの使用について事前調査を行う際に、資格を持っている者による調査が義務付けられるようになりました。
2025年2月現在、アスベスト作業に必須な資格は4つあります。それぞれの資格の詳細と、難易度を交えて説明しましょう。
石綿作業主任者とは2006年に導入された国家資格で、アスベストの除去作業を現場で指揮監督したり、作業の計画立案をしたりするために必要な資格で、アスベストの取り扱いを行う事業者で最低1人選任する必要があります。
石綿作業主任者の資格を得るためには、10時間程度の石綿作業主任者技能講習を終了し、試験を受けて合格する必要があります。とくに実務経験は必要なく誰でも受けられますが、業務に就けるのは18歳以上です。
石綿作業主任者技能講習は通常2日間で開催されます。
1日目は健康障害及び予防措置に関する知識(2時間)作業環境の改善方法に関する知識(4時間)を学びます。
2日目は保護具に関する知識(2時間)関係法令(2時間)を学んだあとガイダンスと修了試験(1時間)を行い、修了者の発表で終了です。
1時間の試験は各科目の得点が40%以上、合計が60%以上で合格となります。合格率は9割以上となっており、難易度は高くありません。ひっかけ問題や難しい問題もほとんどないと言われており、技能講習を真剣に受講し、内容を理解していれば合格することが可能な資格です。
また不合格の場合は補習講義を受講した上で、追試験が受けられますが、追試験も不合格の場合は新規で申し込みを行わなければなりません。
石綿作業従事者の資格はアスベスト入り建材を運搬するなど、実際にアスベストに関わる仕事をする際に資格の取得が義務付けられています。違反をすると事業者が罰則の対象になります。
受験資格は18歳以上で実務経験などは不要です。特別教育講習を受講すれば資格を取ることができます。
特別教育は合計で4.5時間の講習のため、1日で修了できます。学科の講習のみで実技や試験もないためオンラインでの受講も可能で、カリキュラムは次の通りです。
石綿作業主任者の技能講習を受けた方は、石綿取扱作業従事者講習が免除されます。そのため石綿作業主任者の資格を取れば、どちらの資格も所持していることなので、現場の作業だけでなく将来的に指揮監督の業務を行う可能性のある方は、石綿作業主任者の資格を目指しましょう。
2023年10月から義務付けられた資格制度です。アスベストが含まれている可能性のある建築物を、改修・解体工事する際は事前調査を行う必要があります。事前調査を行う際に、石綿含有建材調査者の資格を持つ者だけが行えるようになりました。
石綿取扱主任者や石綿取扱作業従事者は資格条件が多くあり、以下の条件に該当する必要があります。
すべての建築物に対して調査が行えます。資格を取得するためには、建築物石綿含友建材調査者講習(11時間)の講義を受講したあと、終了考査として筆記試験を受けて合格すれば資格が取得できます。
試験の難易度は受講する機関や実施年度に差はあるものの6割〜9割の合格率なので、真剣に講習を受けて事前準備を怠わなければそれほど難しくはありません。
一般建築物石綿含有友建材調査者講習のカリキュラムは次の通りです。
筆記試験はマークシート形式の試験で80問出題され、そのうちの6割(48問以上の正解)で合格です。
すべての建築物に対して石綿含有建材の調査ができます。2025年2月現在では、特定と一般の調査者で行える業務は同じです。区分がわかれているので将来的に変更が起こる可能性はあります。
特定の場合は終了考査が一般よりも多く筆記試験(1時間)のほかに口述試験(20分)調査票試験(1時間)を受けなければなりません。一般より試験が多くなるため、難易度は少し高いといえるでしょう。
口述試験は面接形式による調査票の説明能力や調査者としての適性、アスベストに関する相互的理解で評価されます。調査票試験は架空の建物について複数の写真を参考に、石綿含有建材調査者として必要とされる知識を判断材料として能力が評価されます。
一戸建ての住宅と共同住宅の住戸内部と、範囲が限定されています。共同住宅の場合、ベランダや廊下などの事前調査は認められていません。講習時間は8時間の講義で、合格率は一般とあまり変わりません。
カリキュラムは次の内容です。
2023年10月からアスベストの事前調査を行なう際も資格が必要になりました。しかし2023年9月30日より前に日本アスベスト調査診断協会に登録されている方は、アスベストの事前調査の資格を有している者とみなされ、新たに資格を取る必要はありません。
2026年1月1日から「工作物石綿事前調査者」制度が設けられることが決まり、この日以降、工作物石綿事前調査者による事前調査が必要です。講習は2日間で最後に修了考査が行われる予定です。詳しくは下記ページをご確認ください。
※講座は、早期満席が見込まれるため、資料請求をいただいていた方から優先で受講を受付しております。
アスベスト作業には、このほかにも役立つ資格がいくつかあります。
一般社団法人 JATI協会が定めた資格で、2023年9月30日までにアスベスト診断士を取得し、日本アスベスト調査診断協会に登録していれば事前調査等が行えました。しかし2023年10月以降に取得した場合は、厚生労働省が認定した一定の要件を満たす必要があるので注意しましょう。
講座の内容は「基礎編」「調査・診断編」「石綿処理編」の3日間行われ、講義終了後に試験があります。試験はいずれの講義も60%以上の得点を取る必要があり、さらに3講座の総得点は70%以上必要です。
作業環境測定士は国家資格で一種と二種があります。二種の資格があればアスベストの粉塵発生の可能性がある作業場で作業環境測定が可能で、一種の資格があれば特定化学物質に関する分析ができます。合格率は一種が6割で二種が4割のため、他の資格と比べると少し難易度が高いといえるでしょう。
アスベスト関係の作業は基本的に資格が必要ですが、資格がなくても業務に携われるものも一部あります。
現場ではなく書面のみで建築物にアスベストが使用されているか確認できる場合、資格は必要ありません。2006年9月1日以降はアスベストの使用が全面禁止されているため、この日以降に設置された建築物であればアスベストが含まれていないと判断できるため、資格保持者による調査は不要です。
事前調査を資格保持者が行い、その結果を踏まえて報告する場合は資格不要です。資格保持者に検体の分析や事前調査の依頼を行い、その結果を報告する場合は資格がなくてもできます。
アスベストを取り扱う場合は年々制度が厳しくなっており、2023年10月以降は事前調査にも有資格者が必要で、さらに2026年1月からは工作物石綿事前調査者による事前調査も必要になります。
アスベストを取り扱う場合資格取得が前提となるため、どの資格が必要なのか、どのような講義があるのかを理解し、必要に応じて資格を取得するようにしましょう。
なお、アスベストに関する資格はおおむね難易度がそこまで高くはなく、講義をしっかりと受けて理解することができれば合格することは可能ですので安心してください。