
なぜ今、石綿(アスベスト)事前調査費用への理解が不可欠なのでしょうか?
2023年10月1日以降、建物の解体や改修工事を行う際の石綿(アスベスト)の事前調査(以降、「事前調査」)は、国の定めた有資格者が実施することが法律で義務化されました。これにより、建物の所有者や工事の発注者にとって、事前調査とその費用は避けて通れない重要事項となっています。
不適切な調査や未実施は、大気汚染防止法に基づく最大30万円の罰金といった直接的な罰則だけでなく、石綿障害予防規則違反による、より重い罰則、工事の中断、予期せぬ追加費用の発生、さらには作業員や周辺住民への健康被害リスクといった、事業継続を揺るがしかねない事態を招きます。
今回は、建物の改修や解体に関わるすべての方を対象に、事前調査費用の内訳と相場、コストを最適化するための具体的な方法、そして誰がその費用を負担すべきかという問題を解説していきます。

事前調査費用の内訳と相場

事前調査の費用は、法律で定められた調査プロセスに沿って発生します。調査は大きく「書面調査・現地目視調査」と「分析調査」の2段階に分かれ、それぞれに費用が設定されています。
見積書の構成:費用項目と注意点
専門業者から提示される見積書は、主に以下の項目で構成されています。
| 書面調査・現地目視調査 |
設計図書等の確認と、有資格者による現地での目視調査です。 |
| 試料(検体)採取 |
分析が必要な場合に建材サンプルを採取する作業です。安全対策費、採取箇所の補修費を含む場合があります。 |
| 分析調査 |
専門機関によるアスベスト含有の有無・種類の特定です。 |
| 報告書作成 |
法令に準拠した正式な報告書の作成です。 |
| 諸経費 |
調査員の交通費、消耗品、作業で発生した廃棄物の処理費用などです。
基本の見積もりに加え、以下のような追加費用が発生する可能性があります。 |
| 追加の検体分析費 |
書面や目視調査の結果、当初の想定より多くの分析が必要になった場合に発生します。 |
| 試料採取特別作業費 |
天井裏や高層階の外壁など、足場や高所作業車が必要な場合や、屋根のコンクリート下の防水シートを採取する際の掘削作業など、試料の採取に特別な作業を要する場合に発生します。 |
| 報告書の追加発行 |
報告書を複数部発行する場合、追加料金がかかることがあります。 |
| 電子報告サポート |
行政への報告義務が生じる規模の工事において、その報告をサポートするサービスを受ける場合に発生することがあります。 |
これらの費用が見積もりに含まれているか、あるいはどのような場合に発生するのかを事前に確認しておくことが、予算超過を防ぐ鍵となります。
見積書の構成:費用項目と注意点
調査費用は建物の規模や構造、そして分析検体数によって大きく変動します。以下に、標準的な市場価格を示します。
表1:調査項目別の標準的な市場価格 (2025/10/01現在)
| 費用項目 |
一般的な市場価格(費用相場) |
備考 |
| 書面・現地目視調査 |
3万円 ~ 10万円 / 1案件 |
建物の規模、部屋数、図面の有無で変動。 |
| 検体採取 |
5,000円 ~ 2万円 / 1検体 |
安全対策費、補修費を含む。採取の難易度による。 |
| 分析調査(定性分析) |
1万2,000円 ~ 3万円 / 1検体 |
アスベストの有無を判定。納期や分析機関で価格が変動。 |
| 分析調査(定量分析) |
2万円 ~ 5万円 / 1検体 |
含有率を測定。事前調査段階では通常不要。 |
| 報告書作成 |
2万円 ~ 5万円 / 1案件 |
写真、図面、分析証明書を含む。 |
実例シナリオ:建物種別・規模別の調査費用総額の目安
下記に、想定される例ごとの総額を列挙します。ただし、金額はプロジェクトの特性、特に分析が必要な検体数によって大きく変動しますので、あくまでも目安としてください。
小規模
(マンション専有部のリフォーム等) |
1~2検体の分析を想定し、5万円~15万円程度。 |
中規模
(戸建て住宅の解体等) |
屋根や外壁、内装材など調査対象が増え、3~10検体の分析を想定して10万円~30万円程度。 |
大規模
(オフィスビル、マンション共用部等) |
建材の種類が多岐にわたり、20~50検体以上の分析が必要になることも多く、30万円~100万円以上に及ぶ場合があります。 |

調査費用を最適化する方法

調査は義務ですが、工夫次第で適切に負担を軽減することが可能です。
相見積もりを取る:業者の賢い選定方法と見積もりの確認ポイント
複数の業者から見積もりを取得することは、費用を抑えるための基本です。しかし、単に総額が最も安い業者を選ぶのは危険です。以下の点を確認し、総合的に判断しましょう。
有資格者のレベルと在籍状況
事前調査は「建築物石綿含有建材調査者」の資格を持つ者が行います。資格には調査範囲が限定的な「一戸建て等」、全ての建築物を調査できる「一般」、さらに実地研修等が加わる最上位の「特定」の3種類があります。調査対象の建物に適した資格者が在籍しているか、特に大規模・複雑な建物では「特定」または「一般」の資格者が複数在籍しているかを確認することが望ましいです。
信頼性の高い分析機関の保有または連携
分析機関を自社で保有しているか、もしくは信頼性の高い分析機関と提携しているかを確認しましょう。信頼性の高い分析機関とは、分析の有資格者が複数在籍している、分析がダブルチェック体制である、国際規格であるISO17025を取得している、などが挙げられます。
見積もりの透明性
「一式」ではなく、1.1で紹介した詳細な内訳が記載されているか確認しましょう。
追加費用の説明
想定外の事態(追加検体など)が発生した場合の費用について、事前に明確な説明があるかを確認しましょう。特に検体の追加はよくある事案です。
分析費用の削減:「みなし含有」の戦略的活用
分析調査を行わず、建材をアスベスト含有とみなす「みなし含有」という選択も、費用を抑えるための一つの戦略です。これは、「分析にかかる費用」と「みなし処理によって割高になる除去・処分費用」を天秤にかける判断です。
高リスク建材(レベル1・2)の場合
除去費用が非常に高額なため、分析して含有の有無を確定させる方が、ほぼ常に経済的です。
低リスク建材(レベル3)の場合
除去費用が比較的安価なため、判断が分かれます。例えば、トイレの個室の床の長尺シートのような少量のものであれば、数万円の分析費用をかけるより、「みなし含有」として処理する方が、結果的に安く、早く工事を終えられる場合があります。一方、マンション廊下一面の長尺シートなど広範囲の場合は、処理費用の総額が分析費用を上回るため、分析調査が合理的です。
さらに、工期が厳しいプロジェクトでは、分析結果を待つ時間を省略するために、意図的に「みなし含有」を選択することも有効なリスク管理手法となり得ます。
公的支援の活用:補助金制度の注意点
国および地方自治体は、アスベスト対策を促進するための補助金制度を設けています。しかし、活用には重要な注意点があります。
対象の限定
補助金の対象は、飛散リスクが最も高いレベル1建材(吹付けアスベスト、アスベスト含有吹付けロックウール)の調査および除去にほぼ限定されます。一般的な戸建て住宅でよく見られるスレート屋根や外壁材などはほとんどの自治体で対象外です。
申請のタイミング
申請は、調査会社や施工業者と契約を締結する前に行う必要があります。事後申請は原則として認められません。
自治体ごとの差異
制度の有無や内容は自治体によって大きく異なります。補助金制度が無い自治体や、逆にレベル2及び3の建材も補助する自治体もありますので、必ず事前に管轄の自治体の建築指導課などに相談してください。
誰が費用を負担するのか?

法的原則:建物所有者の第一義的責任
法律上、建物を安全な状態に維持する義務は建物所有者にあります。そのため、工事に伴う事前調査の費用は、原則として所有者が負担します。建設業者の見積もりに調査費用が含まれているのは、この所有者負担分を計上しているためです。
賃貸物件の場合:貸主と借主の責任範囲
費用負担の判断が難しいのが賃貸物件です。基準は工事の性質と賃貸借契約書の内容によって決まります。
貸主(オーナー)の責任範囲
建物の構造躯体や共用部など、建物全体の維持管理に関わる部分の工事に伴う事前調査は、貸主が負担するのが一般的です。
借主(テナント)の責任範囲
借主が自らの事業目的で専有部内の内装変更などを行う場合、それに伴う事前調査費用は、借主が負担することが多くなります。
最終的な判断基準は賃貸借契約書の記載です。条項が曖昧な場合は、トラブルを避けるため、調査に着手する前に貸主・借主間で協議し、書面で合意しておくことが賢明です。
まとめ:事前調査を知り、賢く攻略しよう

事前調査にかかる費用は、決して軽微な負担ではありません。しかし、その内訳を理解し、相見積もりを賢く活用し、信頼できる専門家を選ぶことで、費用を最適化することは十分に可能です。そしてそれは同時に、法的な罰則や工事中断のリスクを回避し、人々の健康を守ることにもつながります。
もしあなたが建物の解体や改修を計画し、法令を遵守した費用対効果の高い事前調査を必要としているならば、まずは信頼できる専門家へ相談してみてはいかがでしょうか。
「石綿の窓口」では、豊富な知識と経験を持つ専門家が、皆様のプロジェクトを安全かつ確実に成功へと導くための支援を提供します。
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