衛生管理者試験とは

衛生管理者とは、労働者の健康障害を予防し、快適な職場環境を確保する役割を持つ専門家です。労働安全衛生法により、従業員が50人以上いる事業場では、業種に応じて第一種または第二種の衛生管理者を選任することが義務付けられています。
第一種と第二種の違い
衛生管理者には、第一種と第二種の2つの区分があります。
- 第一種衛生管理者:有害な業務を含む、すべての業種で選任が可能です。化学物質を扱う製造業や建設業、医療業などが該当します。試験科目が第二種よりも多く、難易度は高いです。
- 第二種衛生管理者:有害な業務と関連のない業種(情報通信業、金融・保険業、卸売・小売業など)に限定されます。
いずれも国家資格であり、一度取得すれば生涯有効です。転職やキャリアアップにおいて大きな強みとなるため、非常に人気があります。

試験の概要と合格基準
衛生管理者試験は、全国の安全衛生技術センターで毎月1〜5回程度実施されています。多いところでは年間60回を超える会場もあり、誰でも受験可能です。試験形式は五肢択一のマークシート方式で、合格定員数はありません。
合格基準は、各科目で40%以上、かつ試験全体で60%以上の正答率を満たすことです。
- 第一種(全44問):関係法令(有害業務あり・なし)、労働衛生(有害業務あり・なし)、労働生理の5科目に分かれています。合格には240点(400点満点)以上が必要です。
- 第二種(全30問):関係法令(有害業務なし)、労働衛生(有害業務なし)、労働生理の3科目から出題されます。合格には180点(300点満点)以上が必要です。
衛生管理者試験の出題傾向

衛生管理者試験は年々出題傾向が変化し、難易度も高まっています。過去問をただ丸暗記するだけでは、合格は難しいと言えるでしょう。最新の法令や社会情勢を理解し、なぜその答えになるのかを深く考える学習が求められています。
衛生管理者試験の合格率は、例年40%〜50%程度で推移しています。他の国家資格と比較すると高いように見えますが、近年は合格率が低下傾向にあり、簡単には合格できない試験になっているのが現状です。
近年における出題傾向の変化
過去の合格率の推移を見ると、2015年頃まで55%以上あった合格率が、2016年以降は40%台にまで落ち込んでいます。この背景には、社会環境の変化を反映した出題傾向の変化があります。
以前は、過去問を繰り返し解くことで合格ラインに達することが可能でした。しかし、近年は以下のような新しい傾向が見られます。
- 新分野からの出題:メンタルヘルス・ストレスチェック制度・過労死防止など、新しい社会問題に対応する問題が増えています。
- 法改正の反映:労働安全衛生法などの関係法令は頻繁に改正されるため、最新の法令知識が求められます。
- 応用問題の増加:単なる知識の暗記を問う問題から、事例を基に適切な対応を問う応用問題が増えています。
こうした変化により、過去問をただ丸暗記するだけでなく、「なぜそうなるのか」という背景や意図を深く理解する学習が不可欠になっています。
衛生管理者試験の頻出問題

衛生管理者試験の出題範囲は広いですが、毎年出題されやすいテーマがあります。これらの頻出テーマを重点的に対策することが、合格への近道です。
頻出テーマ
以下のテーマは、ほぼ毎回出題されると考えてよいでしょう。
関係法令
- 安全衛生管理体制:事業場の規模や業種に応じた衛生管理者の選任要件、衛生委員会の設置義務など、基本中の基本です。
- 健康診断:定期健康診断、特殊健康診断の対象者や検査項目、実施義務について問われます。
- 作業主任者:特定の危険有害な作業を行う際に選任が義務付けられる作業主任者について、その役割や選任要件が出題されます。
労働衛生
作業環境測定:作業場における有害物質の濃度や騒音レベルなどを測定する方法や評価基準が問われます。
化学物質による健康障害:有機溶剤・特定化学物質・鉛・粉じんなど、有害な化学物質が引き起こす健康障害とその予防策に関する問題です。
VDT作業:パソコンなどの情報機器を使用する作業(VDT作業)における健康障害(眼精疲労、筋骨格系疾患など)の予防対策が重要です。
労働生理
血液循環:血液の役割や循環器系(心臓、血管など)の構造・機能について問われます。
ストレス:ストレスが身体に与える影響や、ストレス軽減のための対策について出題されます。
これらのテーマは、テキストや過去問で必ず確認しておきましょう。
出題例①:安全衛生管理体制
問題:
常時50人以上の従業員を雇用する事業場において、衛生管理者として選任できる者として、適切な記述をすべて選びなさい。
①医師、歯科医師
②保健師
③労働衛生コンサルタント
④第一種衛生管理者免許を有する者
⑤衛生工学衛生管理者免許を有する者
解答:①②③④⑤
解説:
この問題は、衛生管理者として選任できる者の資格を問う基本問題です。実際には、「特定の条件を満たした学校の卒業者」など、より詳細な選択肢が含まれることもあります。労働安全衛生規則第7条では、衛生管理者として選任できる資格者として、医師・歯科医師・保健師・労働衛生コンサルタント・衛生管理者免許を有する者を定めています。
出題例②:作業主任者
問題:
労働安全衛生法に基づき、特定の作業において選任が義務付けられている作業主任者に関する記述として、正しいものはどれか。
①作業主任者は、当該作業場に専属である必要はない。
②作業主任者は、作業場所を監督し、作業方法を決定する。
③作業主任者は、労働者の作業手順を指導する必要はない。
④事業者は、作業主任者を選任しなくてもよい。
⑤作業主任者には、特別な資格は必要ない。
解答:②
解説:作業主任者は、当該作業における労働災害を防止するための責任者です。作業場所を監督し、作業方法を決定することに加え、労働者の指揮、作業手順の指導など、安全な作業環境を確保するための重要な役割を担います。
出題例③:化学物質による健康障害
問題:
特定化学物質であるベンゼンを取り扱う作業場において、ベンゼン中毒の予防対策として最も適切なものはどれか。
①労働者に健康診断を受けさせなくてもよい。
②作業場での喫煙を許可する。
③局所排気装置を設ける。
④防護服の着用を義務付ける必要はない。
⑤作業場の換気を一切行わない。
解答:③
解説:
ベンゼンは、再生不良性貧血などの健康障害を引き起こす可能性があります。最も効果的な予防策は、有害な化学物質の拡散を防ぐことです。局所排気装置を設けることで、発生源で有害物質を捕集し、作業場の空気を清浄に保つことができます。
出題例④:VDT作業
問題:
VDT作業における労働者の健康障害を予防するための措置に関する記述として、最も不適切なものはどれか。
①作業時間中に、適度な休憩を設ける。
②ディスプレイは、画面が光るため正面から照明を当てる。
③椅子は、安定していて、床からの高さを調整できるものが望ましい。
④連続作業が1時間を超えないようにする。
⑤作業を連続して行う際は、10分〜15分の作業休止時間を設ける。
解答:②
解説:
VDT作業では、眼精疲労を軽減することが重要です。ディスプレイに照明が映り込むと、画面が見えにくくなり、目の疲れが増すため、照明はディスプレイの正面からではなく、横から当てるのが適切です。