
外壁工事を行う際、必ず確認しなければならないのが「アスベストの含有状況」です。2022年4月の法改正により、一定規模以上の工事では事前調査結果の報告が義務化され、違反すると最大30万円の罰金が科せられます。
特に2006年以前に建てられた建物では、窯業系サイディングや外壁仕上塗材にアスベストが含まれている可能性があります。築20年以上の住宅では、窯業系サイディングの約7割にアスベストが含有されているというデータもあり、適切な判断が欠かせません。
この記事では、外壁材の種類と特徴、現場での見分け方、法令遵守のための手続きまで、工事業者の皆様が実務で活用できる情報をわかりやすく解説します。

外壁にアスベストが使われた背景

外壁工事でアスベスト含有建材に遭遇する可能性を正しく判断するため、アスベストが外壁材に使用された背景を理解しておくことが大切です。なぜこれほど多くの建物にアスベストが使われたのか、その理由と使用禁止までの経緯を詳しく解説します。
なぜ外壁材にアスベストが使われたのか
アスベストは建材として非常に優秀な特性を持っていたため、外壁材に広く採用されました。
耐火性・耐久性・断熱性に優れ、軽量かつ安価で加工しやすいという特徴があり、外壁材として理想的な条件を満たしています。
- 耐火性能:500~800℃の高温でも燃えない
- 耐久性:風雨や紫外線に強い
- コスト面:天然鉱物で安価に調達可能
このような優れた特性により、アスベストは1970年代から2000年代初頭まで外壁材の主要素材として大量に使用されました。
アスベスト使用禁止と2006年の転換点
外壁材におけるアスベスト使用は、2006年9月1日を境に原則禁止されました。
アスベストによる肺がんや悪性中皮腫などの深刻な健康被害が社会問題となり、段階的な規制強化を経て最終的に全面禁止となっています。
規制の流れは以下の通りです。
- 1975年10月:5重量%超の吹き付け作業禁止
- 1995年4月:青石綿・茶石綿の全面禁止、1重量%超の吹き付け禁止
- 2004年10月:1重量%超の建材・摩擦材等10品目の製造禁止
- 2006年9月:0.1重量%超製品の原則禁止
- 2012年:例外なしの完全禁止
そのため、2006年9月以降に製造された建材は基本的に安全ですが、在庫品が2007年頃まで流通していた可能性があるため、築年数による判断が現場では欠かせません。
外壁のアスベスト含有建材の種類と特徴

工事現場でアスベスト含有の可能性を判断するため、どの外壁材にアスベストが使われていたのかを具体的に把握する必要があります。ここでは、工事業者が遭遇する頻度の高い代表的な外壁材について、その特徴と含有リスクを整理しました。
窯業系サイディングのアスベスト含有状況
2006年以前に製造された窯業系サイディングの多くにアスベストが含まれています。
セメントと繊維質材料を混合して製造する窯業系サイディングでは、アスベストが補強繊維として大切な役割を果たしていました。
含有状況を整理すると以下のようになります。
- 製造時期:1990年代から2004年頃まで
- 含有成分:クリソタイル(白石綿)
- 含有率:5~15重量%程度
- 特に注意:14mm厚以上の製品は含有率が高い傾向
築15年以上の住宅で窯業系サイディングが使用されている場合は、アスベスト含有の可能性が高いと判断し、適切な調査を行うことが大切です。
外壁仕上塗材(リシン・スタッコ)の特徴
外壁仕上塗材は見た目での判断が困難なため、特に注意が必要なアスベスト含有建材です。
リシン吹付やスタッコ吹付などの仕上塗材には、アスベストが増粘剤や補強材として添加されており、施工後は他の材料と一体化します。
主な特徴は以下の通りです。
- 使用期間:1980年代から2006年まで
- 含有率:1~10重量%程度
- 施工場所:マンションや事務所ビルの外壁に多い
- 見分け方:細かい砂粒状(リシン)、厚みのある凹凸(スタッコ)
2006年以前に施工された仕上塗材については、外観にかかわらずアスベスト含有の可能性があると考え、高圧洗浄や剥離作業前には必ず専門調査を実施することが求められています。
外壁のアスベストを見分ける方法

現場でアスベスト含有の可能性を迅速かつ正確に判断することは、工事の安全性と法令遵守の両面で大切です。工事業者が実践すべき効果的な見分け方について、具体的な判断基準をご紹介します。
築年数と外観による判断基準
築年数は外壁のアスベスト含有を判断する最も大切な指標です。
2006年9月以前に建てられた建物では、アスベスト含有外壁材が使用されている可能性が高くなります。
築年数による判断基準は以下の通りです。
- 築18年以上(2006年以前着工):要注意
- 築15年以上:窯業系サイディングの含有可能性が高い
- 築30年以上:仕上塗材にも含有の可能性
外観による補助的な判断ポイントとしては、以下のような特徴があります。
窯業系サイディング:
- 表面が平滑でつなぎ目にコーキングがある
- 厚みが12~16mm程度
- 色あせや白い粉(チョーキング)が発生
仕上塗材:
- 吹付け特有の細かい凹凸
- リシンやスタッコなどの名称がある場合は要注意
ただし、外観だけでは確実な判断はできないため、築年数による判断を基本とし、疑いがある場合は必ず専門調査を実施することが現場の鉄則です。
専門調査が必要なケースとタイミング
以下のケースでは、法的義務として専門調査が必要となります。
調査が必要なケース:
すべての解体・改修工事で事前調査が義務化されています。その中でも、以下の工事については都道府県への報告義務もあります。
- 解体工事(床面積80㎡以上)
- 改修工事(請負金額100万円以上)
調査のタイミング:
- 工事着手前の早い段階で実施
- 都道府県への報告が必要な場合は工事開始前までに完了
- 緊急工事の場合でも作業開始前の調査が原則
現場では工事内容と建物の築年数を確認し、法的要件に該当する場合は必ず有資格者による事前調査を実施することが工事業者の責務となります。
外壁工事・リフォーム時の注意点

外壁工事やリフォーム実施時は、アスベスト含有建材への適切な対応が法的に求められており、違反すると工事停止や罰則の対象となります。工事種別ごとに異なる法的要件と必要な対策について、実務で役立つ情報をまとめました。
外壁改修工事で必要な手続きと対策
外壁改修工事では、工事前に必ず事前調査と適切な飛散防止対策が必要です。
外壁材の除去や破砕作業によってアスベスト繊維が飛散し、作業員や周辺住民の健康被害を引き起こす可能性があります。
必要な対策:
外壁材はレベル3建材のため、以下の対策が義務付けられています。
- 湿潤化による粉じん飛散防止
- 適切な保護具(防じんマスク、保護衣)の着用
- 廃棄物の適正処理
手続き面においては:
- 事前調査の実施(記録と保存が必要)
- レベル3建材のため計画届の提出は不要
- 請負金額100万円以上の改修工事では都道府県への報告が必要
外壁改修工事を受注する際は、必ず築年数を確認し、2006年以前の建物では事前調査の実施と適切な飛散防止対策を講じることが工事業者の基本責務となります。
解体工事前の事前調査義務
建物の解体工事では、アスベストの事前調査が法的に義務化されています。
床面積80㎡以上の解体工事では都道府県への報告が義務付けられ、有資格者による調査実施が必要です。
調査内容は以下の通りです。
- 設計図書等による書面調査
- 現地での目視調査
- 必要に応じた分析調査の実施
解体工事を行う工事業者は、契約段階で建物の床面積を確認し、法的要件に該当する場合は必ず有資格者による事前調査を実施し、適切な時期に報告を完了することが欠かせません。
外壁のアスベスト対処法と業者選び

外壁のアスベスト含有が確認された場合、適切な対処と信頼できる調査・分析業者の選定が工事の成功を左右します。ここからは、コストと品質のバランスを考慮した実務的な判断ポイントについて解説していきます。
調査・分析にかかる費用の目安
外壁のアスベスト調査・分析費用は、調査範囲と分析検体数によって変動します。
費用の内訳と相場は以下のようになります。
事前調査(書面・目視)の費用:
分析調査の費用:
- 1検体あたり:2~5万円
- 外壁材では通常2~5検体の採取が必要
工事予算を組む際は調査費用として10~20万円程度を見込み、工期に余裕を持たせることで適正価格でのサービス利用が可能になります
信頼できる専門業者の選び方
アスベスト調査・分析業者の選定では、有資格者の在籍と分析精度が最も大切な判断基準となります。
2023年10月から調査・分析業務にも資格要件が設けられ、法的要件を満たさない業者では調査結果が無効となるリスクがあります。
業者選定のチェックポイントは以下の通りです。
必須の確認項目:
- 建築物石綿含有建材調査者の在籍
- 石綿分析技術評価事業の認定分析技術者の在籍
- JIS規格に準拠した分析設備の保有
- 過去の実績と報告書作成件数
業者選定時は価格だけでなく、有資格者在籍の確認、分析精度の担保、迅速な対応体制を総合的に評価し、長期的な信頼関係を構築できる専門機関を選ぶことが大切です。
まとめ

外壁工事において、アスベスト含有建材への適切な対応は法的義務であり、工事業者の基本的な責務です。
2006年以前に建てられた建物では、窯業系サイディングや外壁仕上塗材にアスベストが含有されている可能性が高く、築年数による初期判断と必要に応じた専門調査の実施が欠かせません。一定規模以上の工事では事前調査と報告が義務化されており、違反した場合は罰則の対象となります。
工事現場では築年数と工事内容を確認し、法的要件に該当する場合は有資格者による事前調査を実施してください。調査費用は10~20万円程度を見込み、信頼できる専門機関を選定することで、安全で法令遵守の工事実施が可能になります。
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