金属の溶接にかかせないアーク溶接は、建設業をはじめ、さまざまな業種で用いられています。
便利な反面、溶接時には特定化学物質(管理第2類物質)の「溶接ヒューム」と呼ばれる有害な粉じんが発生するので、感電や火災等の労働災害リスクが高まります。
そのため事業者は、溶接機を使用する作業者にアーク溶接等の業務に係る特別教育(以下「アーク溶接等特別教育」)を受けさせる義務があります。
今回はアーク溶接に関わる労働災害事例をもとに、アーク溶接等特別教育の重要性をお伝えします。ぜひ最後までご覧ください。
公開日:2025年10月31日 更新日:2025年10月31日

金属の溶接にかかせないアーク溶接は、建設業をはじめ、さまざまな業種で用いられています。
便利な反面、溶接時には特定化学物質(管理第2類物質)の「溶接ヒューム」と呼ばれる有害な粉じんが発生するので、感電や火災等の労働災害リスクが高まります。
そのため事業者は、溶接機を使用する作業者にアーク溶接等の業務に係る特別教育(以下「アーク溶接等特別教育」)を受けさせる義務があります。
今回はアーク溶接に関わる労働災害事例をもとに、アーク溶接等特別教育の重要性をお伝えします。ぜひ最後までご覧ください。

アーク溶接等特別教育とはどんな内容なのでしょうか。
アーク溶接とは、電位差による火花が途切れないような距離を保つことにより、5,000℃以上の高温を維持し、この温度を利用してさまざまな金属を接合する溶接方法の総称です。
しかし、特別教育を受けておらず、正しい知識と技術が無かったために、溶接作業中に感電、火災・爆発、有害物質による健康障害などの労働災害が多数発生しています。
中には休業や死亡に至るケースもあることから、事業者は溶接等の業務に労働者を就かせるときは、アーク溶接等特別教育を行う義務があります。(労働安全衛生法第59条第3項、労働安全衛生規則第36条)
事業者がアーク溶接等特別教育を受けさせずに業務に就かせた場合、事業者は罰則を受けます。また、6か月に一度の特殊健康診断の受診や作業環境測定も義務付けられており、これらを怠った場合も同様に罰則が適用されることがあります。
労働者の安全を守るためにも、必ずアーク溶接等特別教育を受講してもらうようにしましょう。
アーク溶接等特別教育についての詳しい内容はこちらをご覧ください。

| 発生状況 | 工場内に新生産設備を導入するのに伴う電気工事中、配管ダクト内への出入口をつくるため、地上から3.7mの高さにある配管ダクト内で発生。
被害者および同僚はプルボックス(電気工事で電線やケーブルを接続・分岐させるために使用する箱型の装置)の取り付け作業にあたり、新しいアングルの溶接作業に取りかかった。 被災者および同僚の2人が配管ダクトの骨組みアングルを足場に作業を行っていたとき、作業箇所のほぼ真下にあったドラム缶の内容物が炎上した。 同僚はすぐに飛び降りたが、被災者は作業着に着火し地上に落下、全身火傷を負った。 |
|---|---|
| 事故の原因 | ドラム缶に入っていた、アルミニウム合金ダイカストの研磨粉等が溶接のスパッターにより直接燃焼した。
発火のおそれのある物質の近くで火源となる可能性のある溶接作業を行っていた。 工事業者のみならず、工場側もドラム缶の内容物の発火性について認識がなかった。 |
| 結果(けが・死亡・周囲への影響) | 全身火傷を負った被害者は死亡した。
近くで作業していた別の同僚も消化作業中に火傷を負った。 |
| 防げたポイント | 作業場所、作業内容からみて危険と思われる物質がある場合は事前に確認し、撤去等を行う。
危険物の取扱いについて教育を行う。 |
| 発生状況 | 建設工事現場において、枠組み足場に腰を下ろし、交流アーク溶接機を用いる作業を行っている時に発生。
被災者および同僚は、作業の途中で雨が降り出したため、作業場所をシートで覆い、作業着がずぶ濡れのまま溶接作業を続行した。 同僚が声をかけようと振り返ったところ、被災者が仰向けに倒れていた。調査の結果、被災者の体にはかなりの電流が流れたことを示す火傷があった。 |
|---|---|
| 事故の原因 | 作業着および体が濡れていたまま溶接棒に触れ、大きい電流が体内を流れたこと。
被災者は特別教育を受けておらず、アーク溶接の危険性、自動電撃防止装置の特性について十分な知識を有していなかった。 |
| 結果(けが・死亡・周囲への影響) | 被災者は死亡した。 |
| 防げたポイント | 降雨、雷の発生等の環境変化にも配慮した作業標準を作成するとともに、的確な指示が行えるよう安全管理体制を整備すること。
状況に応じた道具を使用すること。 特別教育をはじめ必要な教育を行うこと。 |
| 発生状況 | 焼酎製造会社の原酒貯蔵タンク2基の保温のため、外側を断熱材で覆う工事において、断熱材取付け用のアングルをタンクの周囲に溶接する作業中に発生。
溶接中に爆発が起こり、タンクが破裂し爆風により1名が火傷を負った。 タンクには、エチルアルコールの濃度44%の原酒がタンク容量の約8割入っていたが、作業者はそのことを知らなかった。 |
|---|---|
| 事故の原因 | タンク内にエチルアルコールがあったにもかかわらずアーク溶接を行ったため、その熱が原因となり、エチルアルコールが爆発した。
被災者は工事を請け負った会社の下請けにあたる会社であり、元請け会社の現場責任者は、前日に指示をしていたが事故当日は不在にしており、該当のタンクが空になっていると思い込んでいた。 |
| 結果(けが・死亡・周囲への影響) | 被災者は火傷を負い、休業した。 |
| 防げたポイント | 危険物が入っているタンクは、危険物を除去するとともに、内部を洗浄する等により爆発火災の危険をなくしてから、溶接等の作業を行う。
発注者・元請け会社・下請け会社ともに連絡を密に行い、あらかじめタンク内を空にしておくことについての重要性を十分に説明する。 溶接作業の開始前にKY活動を行う。 |

火災、感電、爆発の災害事例をご紹介しました。これらの事故の背景には、共通して作業者の知識不足が挙げられます。特別教育を受けていない被災者もいました。
アーク溶接等の作業を行うために「何が危険なポイントか」を理解していれば防げた事故もあったかもしれません。
作業箇所だけではなく、周辺に引火や爆発等のおそれがないかを確認する必要があります。屋外での作業には天候も関わってきます。
そのためにはKY活動を積極的に行う必要があるでしょう。

アーク溶接は、正しい知識のもと、道具や手順を整えて作業しなければ重大な事故につながりかねません。
管理者はKY活動や作業指示を適切に行い、天候や作業環境に応じて対策をする必要があるでしょう。
そのためには作業者一人ひとりが特別教育を受講し、個人の安全意識を高めることも重要です。
アーク溶接等特別教育は学歴や経験に関係なく、満18歳以上であれば誰でも受講できますので、溶接業務に就く前に受講しましょう。

このような労働災害を起こさないために、事業者には溶接業務の従事者にアーク溶接等特別教育を受講させる義務があります。
CIC日本建設情報センターでは、さまざまな教育をオンライン講座で提供しており、今回ご紹介した「アーク溶接等特別教育」も受講することができます。
受講についての詳しい内容はこちらをご覧ください。
受講を通して事業者・作業者ともに安全への意識を高めていきましょう。