2006年に原則使用が禁止されたアスベスト。しかし、その脅威は決して過去のものではありません。むしろ近年、法規制は厳格化の一途をたどっています。
この記事では、アスベストの性質や健康被害の実際、もしもの時の対処法、そして万が一の際に頼れる公的制度について解説します。
公開日:2025年10月31日 更新日:2025年10月31日

2006年に原則使用が禁止されたアスベスト。しかし、その脅威は決して過去のものではありません。むしろ近年、法規制は厳格化の一途をたどっています。
この記事では、アスベストの性質や健康被害の実際、もしもの時の対処法、そして万が一の際に頼れる公的制度について解説します。

アスベスト(石綿)とは、非常に細い繊維からなる天然鉱物です。一見するとただの石ですが、ほぐすと綿状になる性質を持っています。
その優れた耐火性、断熱性、耐久性、耐薬品性から、屋根材、壁材、床材、配管の保温材など、実に3,000種類以上の建材や工業製品に利用されてきました。
一方で、その優れた性質こそが、人体にとっての脅威となります。
アスベスト繊維は、髪の毛の5,000分の1の細さにもなり、この状態では目には見えません。これが空気中に飛散すると、呼吸とともに容易に体内に侵入します。そして一度肺の奥深くに入り込むと、その丈夫さゆえに体内の免疫機能でも分解・排出されずに長期間留まり続け、数十年という非常に長い潜伏期間を経て、ある日突然、深刻な病気を引き起こすのです。
法律で規制されているアスベストは、大きく「蛇紋石(じゃもんせき)族」と「角閃石(かくせんせき)族」の2つのグループに分けられ、さらに6つの種類が存在します。日本で主に使用されてきたのは、クリソタイル、クロシドライト、アモサイトの3種類です。
これらの中でも、角閃石族(アモサイト、クロシドライトなど)は、クリソタイルに比べて特に悪性中皮腫を引き起こす力が強いとされています。
| 種類(通称) | 鉱物グループ | 特徴 | 主な用途 | 発がん性リスク |
|---|---|---|---|---|
| クリソタイル(白石綿) | 蛇紋石族 | 柔軟で白色の繊維。世界での使用量の9割以上を占める。 | 屋根材、壁材、床タイルなど多種多様な建材 | 高い |
| アモサイト(茶石綿) | 角閃石族 | 硬く、鋭い針状の繊維。 | 吹付材、保温材、断熱材など | 非常に高い |
| クロシドライト(青石綿) | 角閃石族 | 硬く、鋭い針状の繊維。 | 吹付材、保温材、断熱材、セメント管など | 極めて高い |
| アンソフィライト | 角閃石族 | 耐薬品性に優れる。 | 商業的な利用は少ない。 | 非常に高いとされている |
| トレモライト | 角閃石族 | 不純物として含まれることがある。 | 商業的な利用は少ない。 | 非常に高いとされている |
| アクチノライト | 角閃石族 | 不純物として含まれることがある。 | 商業的な利用は少ない。 | 非常に高いとされている |
参考:「環境再生保全機構」

アスベストの吸引と肺胞への到達: 空気中に飛散したアスベスト繊維は、鼻や気管の防御機能をすり抜け、肺の最も奥にある「肺胞」にまで到達します。
アスベストによる慢性炎症の発生: 体はアスベストを異物とみなし、免疫細胞がこれを排除しようとします。しかし、アスベスト繊維は非常に丈夫なため、排除することができません。この攻撃が数十年間にわたって繰り返されることで、肺の組織に絶え間ない「慢性炎症」が生じます。
慢性炎症から組織の線維化、がん化へ: 慢性的な炎症は肺の組織を傷つけて硬化させ(線維化)、呼吸機能を低下させます。さらに、炎症の過程で産生される活性酸素などが周囲の正常な細胞のDNAを傷つけ、最終的にがん(悪性中皮腫や肺がん)へと発展すると考えられています。
アスベストばく露によって引き起こされる代表的な疾患は以下の4つです。
石綿肺:アスベスト吸引で肺が線維化し硬くなる病気。肺の弾力性が失われ、息切れや乾いた咳、呼吸困難が進行します。
肺がん:アスベストが原因で肺の細胞がん化する病気。喫煙が加わるとリスクが相乗効果で激増し、長引く咳や血痰、胸の痛みが主な症状です。
悪性中皮腫:肺を覆う胸膜などに発生する悪性度の高いがん。ほぼアスベストが原因です。胸水による息切れや胸の痛みが特徴です。
びまん性胸膜肥厚:胸膜が広範囲に厚くなる病気で、進行すると肺の膨張が妨げられ、呼吸機能障害を引き起こします。
アスベスト関連疾患の最も厄介な特徴は、「潜伏期間」が非常に長いのが特徴です。石綿肺で15年以上、肺がんや悪性中皮腫では20〜50年に及ぶこともあります。この間、自覚症状はほとんどないのが特徴です。
この「今ではない危機」が、「自分はきっと大丈夫」「そのころには寿命だ」といった危険な油断を生み出します。
アスベストやその含有製品を取り扱う作業に加え、以下の職種に従事した経験のある方は注意が必要です。
アスベストの脅威は、作業現場の中だけで完結しません。作業後の作業着や髪、靴に付着した繊維が家庭に持ち込まれ、家族がそれを吸い込んでしまう「二次ばく露(家庭内ばく露)」のリスクもあります。
実際に、ばく露歴が全くない家族がアスベスト関連疾患(特に悪性中皮腫)を発症した事例が、国内外で数多く報告されています。
法律では、作業場からの退出時に更衣室や洗身設備を使用し、作業衣を現場で適切に処理することが定められています。これは、大切な家族を守る最低限の義務といえるでしょう。

もし過去のばく露などで不安を感じたら、まずは最寄りの労災病院や呼吸器内科などの専門医療機関に相談することが重要です。
アスベストにばく露した可能性のある業務に、過去に従事した、あるいは現在従事している方は、たとえ自覚症状がなくても、定期的な健康診断で以下の検査を受けることが重要です。
事業者は、アスベスト取扱労働者に対し「石綿健康診断」を実施する義務があります。診断は雇入れ時や配置転換時、その後6ヶ月ごとに行われ、業務歴の調査、問診、胸部X線検査が基本です。
アスベストによる健康被害と認定された場合、手厚い公的補償を受けられる可能性があります。原因が「仕事」か「それ以外」かで、利用できる制度が明確に分かれています。
1. 仕事が原因の場合 ⇒ 「労災保険制度」
2. 仕事以外が原因の場合 ⇒ 「石綿健康被害救済制度」

アスベストは過去の問題ではなく、数十年の潜伏期間を経て肺がんや中皮腫など深刻な病気を引き起こす、今そこにある脅威です。そのリスクは作業員本人だけでなく、作業着等を介して家族を危険に晒す可能性もあります。心当たりがある方は定期的な健康診断を欠かさず、万が一の際は労災保険や石綿健康被害救済制度などの公的補償を活用しましょう。
石綿(アスベスト)調査は、法令により解体や改修工事の前に実施が義務づけられています。しかし、調査の手配や報告書の作成など、担当者にとっては負担の大きい業務になりがちです。
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